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浦和家庭裁判所越谷支部 平成8年(家)584号 審判

申立人 藤原良寛 外1名

事件本人 藤原界廷

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  申立ての趣旨

本籍東京都葛飾区○○×丁目×番筆頭者藤原良寛の戸籍中、長男藤原界廷の出生年月日欄及び身分事項欄の出生年月日にいずれも「平成2年9月15日」とあるのを、「平成元年9月15日」とそれぞれ訂正することを許可する旨の審判を求める。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によれば、次の事実が認められる。

〈1〉  戸籍訂正申立人藤原良寛は日本人国籍を有し、同田賢珠は大韓民国の国籍を有するものであるが、平成2年7月20日に国際婚姻した夫婦である。

〈2〉  事件本人は上記婚姻前の平成元年9月15日に、申立人藤原を父とし、同田を母として、大韓民国の京幾道安養市○○××番地×号の洪昭姫助産婦医院において出生した。当時申立人藤原は、日本人妻藤原明子と離婚手続中であり、事件本人を韓国女性申立人田の婚外子として出生した。

〈3〉  国籍法2条によれば、子の出生時に父または母が日本国民であるときは日本国籍を取得するところ、出生前に父である申立人藤原は事件本人を法手続上の胎児認知していなかったから、法例18条により、事件本人は、母の本国法である韓国民法による婚外子となり、韓国戸籍法51条2項によって申立人田は母として事件本人出生の日から1か月以内に自分の戸籍に入籍する義務が生じた。

〈4〉  しかるに、申立人田は、このことをせず、しばらく戸籍届手続を放置し、申立人藤原が平成元年10月6日に藤原明子と正式離婚し、申立人らが正式に婚姻した平成2年7月20日の後である平成3年7月26日にいたって、しかも、出生の日を1年遅らせて事件本人が平成2年9月15日生まれの嫡出子である旨の出生届を大韓民国日本国特命全権大使宛てに届け出たため、平成3年8月14日に東京都葛飾区長に送付され、申立人の藤原の戸籍簿に長男として記載され、その結果として日本国籍を取得したかたちとなった。

〈5〉  申立人らは、上記の虚偽の出生届出をするため、ソウルの助産婦であり、出生証明書の発行に携わった洪昭姫が知人であったことから、同助産婦に頼んで虚偽の出生証明書を発行させ、戸籍届に添附した。

2  以上認定したところによれば、事件本人の真実の出生の日は平成元年9月15日であり、申立人らによって、真実と異なる虚偽の戸籍届がされたことが認められるところ、これを真実と合致させるため、事件本人の出生の日を1年間遡らせることにするとすれば、事件本人は、実体的には出生時申立人田の婚外子であり、母の国籍を取得して韓国人となることとなる。そうすると、事件本人は韓国人であるから、日本国籍に入籍されていることは、許されなくなり、日本戸籍からの消除手続が必要があり、日本国籍を喪失する結果となるものである。こればかりでなく、事件本人は、出生時においては非嫡出の子であるから、その後において、申立人藤原との父子の親子関係形成のためには、認知が必要となるものである。

3  以上によれば、申立人らの本件戸籍訂正の申立ては、戸籍上事件本人の出生年月日に関し、真実に合致しない部分がみられるから、出生年月日の日付の訂正が必要ともみられるが、その訂正が単に日付の訂正にとどまらず、国籍や身分の得喪にまで及ぶ重大な事項の訂正となることから、日本国民の身分の公証を目的とし、その間における訂正手続を予定した戸籍法113条の守備範囲を超えるものであり、真実にあわせるため、戸籍全部の消除を求めるというものであるならばともかく、同条によって出生年月日のみの戸籍訂正は許されないというべきである。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 生田治郎)

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